
マンションを売却する場合、減価償却費について知っておかなければならないことがあります。ここでは、減価償却費とはいったいどのようなものかという説明からマンションを売却する際に減価償却費がどのように関係してくるのかなど、マンション売却が初めての方にも分かりやすく説明していきます。
これからマンションを売却する方、将来売却を考えている方はぜひ避けて通れない税金処理を正しく行うために参考にしてみてください。
減価償却費とは

マンション売却の減価償却がテーマですが、まず減価償却(げんかしょうきゃく)とはどのようなものかを説明します。減価償却とは、企業の会計に関する認識の一つで、例えば会社の業務に使用するために購入した物を使える年数(耐用年数)に応じて分割して費用化して計上することを指します。
具体的な例を挙げて説明すると、100万円で業務用のコンピュータを買ったとして、この100万円を業務上の費用として購入したその年に全額計上するものとします。しかし、実際には業務用コンピュータは1年だけ使用して終わるのではなく、翌年も業務に使用しているはずです。
ある程度の長期にわたって使用するために購入したものを最初の年だけ計上するのは少々実情と合わないと感じるでしょう。また、最初の年に全額を計上すると翌年以降もそのコンピュータを使用しているにもかかわらず、計上費用0円になるというのも何だかおかしい気がします。
こうした理由から、ある程度長期間にわたって使用すると想定した上で支払われた費用に対しては、お金を支払った時点で費用として全額を計上するのではなく、使う年数(耐用年数)に対応して少しずつ費用とすべきである、という考え方が減価償却です。
これが一般的な事業などで会計手続きとして使用されている減価償却であり、対象となる項目に対する耐用年数は法律で定められています。
マンション売却になぜ減価償却費が関係してくるのか
ここからは、マンション売却における減価償却について説明していきます。減価償却がなぜマンション売却に関わってくるのかというと、マンションなどの不動産を売却した場合、売却益が出ます。その売却益に対しては譲渡所得税がかかります。
マンションだけでなく、土地、不動産、株式などを売却して発生した売却益に応じて納める税金が譲渡所得税です。ただし、建物は経年劣化するという考え方によって、売却益から減価償却費を差し引くことで節税することが可能です。
では、譲渡所得税額はどのようにして決められるのでしょうか。譲渡所得税額は、課税対象となる譲渡所得金額に税率が掛けられて決められます。税率は対象となる不動産の所有期間、用途などによって変わります。このうち、所有期間については、譲渡した年の1月1日時点での所有期間が5年を越えるかどうかで税率が2つに分かれます。
5年以下の場合は短期譲渡所得、5年を超える場合は長期譲渡所得となります。長期譲渡所得の方が短期譲渡所得より税率は低くなります。つまり、所有期間が5年以下で売却した場合は5年超えよりも税率は高くなるということです。
課税される譲渡所得税額の計算方法
マンション売却をはじめとして不動産を売却した場合、不動産売却額の全額が譲渡所得となるわけではありません。実際の売却額から売却にかかった費用や不動産取得にかかった費用を差し引くことが可能です。事業経営者が利益を計上するときに、売上から原価や経費を差し引くのと同じ考え方です。
売却したマンションを購入した際にかかった購入代金や仲介料は取得費、マンション売却の際にかかった手数料や印紙税などは譲渡費用となります。この2つをマンション売却額から差し引きます。式で表すと、譲渡価額-取得費-譲渡費用=課税譲渡所得となります。
ここで注意すべきなのが、不動産の購入代金は購入したときの金額ではなく、売却したときの不動産の価値として計算されることです。この売却したときの不動産の価値を導き出すための計算が減価償却となります。別の言い方をすると、マンションを売却したことで得た利益から、取得費と譲渡費用を差し引いて、支払うべき税金が決められますが、取得費を決定するために使われる考え方が減価償却ということです。
マンションなどの不動産を売却する際の取得費について式で表すと、購入価額-減価償却費=取得費 となります。この記事の冒頭で減価償却の考え方を説明したように、一般的に減価償却の対象は事業用資産とされます。しかし、個人の自宅用マンションも減価償却の対象になります。
ただし、不動産のうち、減価償却の対象とされるのは建物部分のみです。土地は歳月とともに価値が劣化するという考え方があてはまらないとされているため、減価償却の対象にはなりません。
マンション売却時の減価償却費の計算方法
マンションの減価償却費の計算方法は大きく2つにわかれます。それが定額法と定率法です。ただし、2016年(平成28年)4月1日以降に取得したマンションは定額法しか認められていません。特に届け出を提出しない場合は定額法となります。
定額法というのは、減価償却の対象となる金額を耐用年数(法律で定められている)で均等に割って、同じ金額を毎年償却していくやり方です。自宅用のマンションに関しては、非事業用資産の耐用年数を使用して減価償却費を計算します。
自宅用マンションの減価償却費を定額法で計算するには式で表すと、建物購入代金×0.9×償却率x経過年数=減価償却費となります。他に、減価償却費の計算に必要な項目となるのが建物購入代金、償却率、経過年数などです。
順にその意味を解説します。建物購入代金とは、建物の価格と手数料などを合計した金額です。土地の代金は含まれません。仮にマンション1棟を土地ごと購入していた場合でも、減価償却できるのは建物部分のみとなります。
償却率とは1年ごとに失っていく価値の指標で、法定耐用年数によって決められます。売却するマンションの償却率を知りたい場合は国税庁サイトを参照しましょう。償却率は建物の用途や構造、経過年数によって異なります。
例えば、マンションの法定耐用年数は構造が「木造・合成樹脂造のもの」は22年、「鉄筋コンクリート造」は47年などといったように構造によって異なります。マンション売却時の耐用年数としては、耐用年数から経過年数を引いた数に0.8を掛けた数値となります。
経過年数とは、建物を購入してから売却するまでの年数を意味します。端数は切り上げになるので注意が必要です。例えば、購入から16年1ヶ月の場合、経過年数は17年となります。
マンション売却時の譲渡所得税を計算してみよう
マンションの減価償却費の計算例を見ておきましょう。
諸費用も含む購入価格3,000万円、構造は鉄筋コンクリート、経過年数は10年というマンションを売却して、譲渡価格が諸費用も含む2,600万円となりました。
この場合の減価償却費はいくらになるのかというと、前述の式である建物購入代金x0.9x償却率x経過年数=減価償却費に当てはめます。国税局が定める償却率0.026を使用した場合、3,000万円×0.9×0.026×10=702万円となります。
課税譲渡所得について前述したとき、譲渡価額-取得費-譲渡費用=課税譲渡所得という式をあげました。この式に出てくる取得費を確定するために、建物の購入代金から減価償却費を引いて算出します。式で表すと、購入価格-減価償却費=取得費となります。
よって、3,000万円-702万円=2,298万円となります。取得費から課税譲渡所得を計算しましょう。諸費用も含む譲渡価格2,600万円-2,298万円=課税譲渡所得費302万円となります。ここから譲渡所得税を計算します。
課税譲渡所得×譲渡所得税率=譲渡所得税となるので、課税譲渡所得費302万円x長期譲渡所得(5年超の所得)の税率とし、定められている20.315%を掛けると302万円×20.315%=61万3513円です。
この金額がマンション売却の譲渡所得に対する譲渡所得税になります。したがって、譲渡所得税を譲渡した日が属する年の翌年に確定申告して納付しなければなりません。これはあくまでも試算で、実際のマンション売却にはさらに専門知識や複雑な税金処理も必要です。
専門家のサポートを得て、ぜひマンション売却を成功させましょう。